春の宴


深紅のアネモネが大地を染めたら、
風が吹き 帆がふくらんで、
私は水面を旅する、遠く。
河を渡り 海原へと。
海の底でもアネモネ※がそよぎ、
セイレーンは歌を思い出す。

薄紫の蓮華※※が大地を染めたら、
私は水辺で身をきよめ、
光をまとい運ぶ、花の香を。
種をまき 芽吹きを祝えと。
野山をゆり起こし舞いながら、
琵琶持つ乙女に宿って歌う。

鳥たちは旅する。
男たちも旅する。
風に乗り 波をこえ
私の歌に招かれて。


※sea anemone=イソギンチャク
※※ レンゲソウ、原義は蓮・睡蓮

( 2023.7.9 & 12.18 +微修正 イラスト作成 Bing Image Creator )


夢緑 ゆめみどり(Bing Image Creator)


風は父さま 枝みな靡く
雪は母さま 白珠ひかる
冬の岸辺で 銀の渦しお
あわい光の 糸を紡いで
月影さやか 羽のころも
あなたのために
織りましょう

過ぎし日の 仮寝の宿は
甘い実香る 桑の葉かげ
私は夢見鳥 糸を紡いで
星影ほどに ひそやかな
草浪ほどに しなやかな
あなたの羽ごろも
織りましょう

旅につかれ まよう夢路
つつむ羽ごろも
あなたのために
織りましょう
早緑めざめ 若草もゆる
春の岸辺の 夜明けまで


( 2023.5.25 + 2024.2.11 ブログより 加筆 )
( 2024.2.4 イラスト作成 Bing Image Creator )


星の羽(絵 Bing Image Creator) – あかり窓 (memoru-merumo.com)

天の布(Bing Image Creator) – あかり窓 (memoru-merumo.com)


セイレーン


昔々とおい昔のこと
 海辺の村の女たちは
  網を編み漁を助けて
   子守歌で微笑みあい
    とても賢かったので
   彼女らの知恵と技は
  子から孫へ伝えられ

やがて海の大女神は
 知恵深き乙女として
  古き神秘の眼差しの
   不老不死の姫として
    たたえられ語られて
   船乗りたちの旅路で
  東へ西へと広められ

荒っぽい舟唄に乗り
 戦いの記憶や異国の
  物語と交わりながら
   馬や牛や果実や宝玉
    星の暦や海図の文字
   あまたの富と重なり
  妖しくいろどられて

もう誰も村女たちの
 潮風に日焼けした腕
  かざらない笑顔とは
   結びつけない神殿へ
    きらびやかな城へと
   連れ去られ囲われて
  謎めいた名で記され

長い長い時の果てに
 忘れ去られた大女神
  だけれど岸に流れる
   村女たちの子守歌と
    網を編み帆布を織る
   見事な技は失われず
  静かな日々が営まれ

遠い漁に出て帰らぬ
 男たちを待ちながら
  星を眺め灯をともし
   子守歌で微笑みあい
    今宵も変わらず昔々
   とおい昔の賢い姫と
  同じ知恵を伝えつつ

不思議な物語の糸を
 女たちは織り続ける
  と……そうこの本に
   記してあるのですよ
    ええ私は海辺の村の
   巫女の末に生まれて
  今宵また夢語り……


( 2023.10.25 イラスト作成 Bing Image Creator )


Le vent se lève !(Bing Image Creator)

Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !
L’air immense ouvre et referme mon livre,
La vague en poudre ose jaillir des rocs !
Envolez-vous, pages tout éblouies !
Rompez, vagues ! Rompez d’eaux réjouies
Ce toit tranquille où picoraient des focs !

( "LE CIMETIÈRE MARIN" Paul Valéry,1920 )


宵の星あかりが照らす
禁断の樹の実のありか、
海の乙女の語り伝えは
運命の書に今も息づく。

尾をかむ海蛇の眼光に
射られたとき人は悟る、
やがて朽ち果てる身と
時を旅する知恵の石と。

パンか石かを選び続け、
いずれ波に散り一抹の
光にかえる……ならば
いまを只、生きるのみ。

定めの書物に記されぬ
明けの星のきらめきは、
大洋の波をわたる蝶の
羽ばたき、その刹那に

風を越えて……宙へと!


( ポール・ヴァレリー「海辺の墓地」のイメージより )

( 2023.10.25 イラスト作成 Bing Image Creator )

残響(Bing Image Creator) – こちら、ドワーフ・プラネット (downadown.com)


子守歌


今日の夢
明日の風車
ひとすじの風が
めぐりめぐる
星はきのうのきのう
ずっと前から
丸い夜だった。
 
唄を抱いて
旅していた
夕べの月よ
忘れないでおくれ
虹色のかすかな記憶
星はめぐる 夢の彼方
知っているのは
明日が来るということだけ。


( 2010.8.6 ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より )
( 2023.10.19 イラスト作成 Bing Image Creator )

こちら、ドワーフ・プラネット (the-wings-at-dark-dawn.com)