背嚢(野口米次郎)

背嚢 

重荷を背負った
女性よ、
お前の袋は何か。
「時の砂袋、
 砂の一粒一粒が悲哀だ、
 悲哀は數へきれない。」

女性よ、
お前の髪は亂れる、
腰に渦巻く雲は何か。
「明日の魂、
 魂は希望に呼びかけ、
 魂は平和の頌を口吟む。」

濱邊は荒涼だ、
私は幻を嵐に見る、
ああ、何もの幻か。
「この世鎮めの人柱、
 彼等は皆を決して、
 皆部署についてゐる。」

女性よ、
お前の背嚢は重い、
お前は何を背負ってゆく。
「将来の種子、
 人生はその一粒一粒に、
 明日の豊華を待ち設ける。」


( 野口米次郎「背嚢(遺稿)」
 『蝋人形』1947年9月、8-9頁 )

「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2023.10.13 & 2024.2.8~9 イラスト作成 Bing Image Creator +加工 )


梅の花

公園の白梅、もう咲いていた。


東風(こち)吹かば
匂(にほ)ひおこせよ
梅の花
主(あるじ)なしとて
春を忘るな

菅原道真
(拾遺集 雑春)


菅原道真 – Wikipedia

大宰府に左遷された菅原道真は、
やがて雷神と結びつけられる。

天神信仰 – Wikipedia


( 2024.1.31 Twitter より )
( 2024.1.9~1.31 イラスト作成 Bing Image Creator +写真加工 )


The Song of Wandering Aengus


I went out to the hazel wood,
Because a fire was in my head,
And cut and peeled a hazel wand,
And hooked a berry to a thread;
And when white moths were on the wing,
And moth-like stars were flickering out,
I dropped the berry in a stream
And caught a little silver trout.

When I had laid it on the floor
I went to blow the fire aflame,
But something rustled on the floor,
And some one called me by my name:
It had become a glimmering girl
With apple blossom in her hair
Who called me by my name and ran
And faded through the brightening air.

Though I am old with wandering
Through hollow lands and hilly lands,
I will find out where she has gone,
And kiss her lips and take her hands;
And walk among long dappled grass,
And pluck till time and times are done
The silver apples of the moon,
The golden apples of the sun.

― The Song of Wandering Aengus―
(William Butler Yeats,1899)


( 2024.1.10 & 1.12 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )

夢の通ひ路 – あかり窓 (memoru-merumo.com)


夏の弔ひ(立原道造「萱草に寄す」より)


逝いた私の時たちが
私の心を金(きん)にした 傷つかぬやう傷は早く愎るやうにと
昨日と明日との間には
ふかい紺青の溝がひかれて過ぎてゐる

投げて捨てたのは
涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだつた
泡立つ白い波のなかに 或る夕べ
何もがすべて消えてしまつた! 筋書どほりに

それから 私は旅人になり いくつも過ぎた
月の光にてらされた岬々の村々を
暑い 涸いた野を

おぼえてゐたら! 私はもう一度かへりたい
どこか? あの場所へ(あの記憶がある
私が待ち それを しづかに諦めた――)


 (青空文庫 立原道造「萱草に寄す」より「夏の弔ひ」 初出:風信子叢書刊行会(自費出版)1937.5.12 )
立原道造 萱草に寄す (aozora.gr.jp)

( 2023.11.6 イラスト作成 Bing Image Creator )


ゆふすげびと 立原道造 – レモン水 (ginmuru-meru.com)


Le vent se lève !(Bing Image Creator)

Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre !
L’air immense ouvre et referme mon livre,
La vague en poudre ose jaillir des rocs !
Envolez-vous, pages tout éblouies !
Rompez, vagues ! Rompez d’eaux réjouies
Ce toit tranquille où picoraient des focs !

( "LE CIMETIÈRE MARIN" Paul Valéry,1920 )


宵の星あかりが照らす
禁断の樹の実のありか、
海の乙女の語り伝えは
運命の書に今も息づく。

尾をかむ海蛇の眼光に
射られたとき人は悟る、
やがて朽ち果てる身と
時を旅する知恵の石と。

パンか石かを選び続け、
いずれ波に散り一抹の
光にかえる……ならば
いまを只、生きるのみ。

定めの書物に記されぬ
明けの星のきらめきは、
大洋の波をわたる蝶の
羽ばたき、その刹那に

風を越えて……宙へと!


( ポール・ヴァレリー「海辺の墓地」のイメージより )

( 2023.10.25 イラスト作成 Bing Image Creator )

残響(Bing Image Creator) – こちら、ドワーフ・プラネット (downadown.com)