「こんにちは、クエビコさん」
「おおガッコ、ひさしぶり。
ふゆのねむりからさめたのかい。
おや、かわいいおつれさんだ」
「このこはピピルコさん、はじめて
そらをとんできたんだよ」
「そうかい、そうかい、はるだなぁ」
かかしのクエビコは、きもちよさそうに
うたいはじめました。
ふゆになれば
しがこ(すがこ)もはって
どじょっこだの ふなっこだの
てんじょこはったと おもうべな
クエビコがいいこえでうたうので、
ガッコはけろろけろろ、
ピピルコもきれいなこえで
いっしょにうたいました。
はるになれば
しがこ(すがこ)もとけて
どじょっこだの ふなっこだの
よるがあけたと おもうべな
うたいながらピピルコは、
ナズナのみをゆすって
シャランシャランとならしました。
けろろけろろ、シャランシャラン。
なつになれば
わらしこおよぎ
どじょっこだの ふなっこだの
おにっこきたなと おもうべな
にぎやかにうたっていると、
ざわざわざわざわ、おがわがなみだち
「うるさいぞー!」
と、われがねのようなおおごえが……
グラグラとじめんがゆれて、
くろいひげをふるわせ、
オオナマズがおどりでました。
「なにがはるだ、なつだ、おれさまは
もっともっと、ねていたいのだ。
さわがしくて、たまらんわい!」
オオナマズのながいひげが、
にょろりとのびてガッコにまきつき、
つるしあげました。
「うるさいから、くってやるぞ」
「うわーやめろー」
「ガッコさん!」
「にげてピピルコさん……」
くるしそうなガッコのすがたに、
ピピルコはなみだをこぼしました。
「たすけて、おねがい」
ピピルコがいのります。
シャランシャラン
かぜにほそいねいろをひびかせ、
ナズナのすずがゆれました。
「わしのてあしがじゆうになれば……」
かかしのクエビコがくやしくて
そらをみあげると、ぽつりぽとん……
あまつぶがおちてきました。
ぽつぽつ、ぽとん……
あっというまにあたりはくらくなり、
はげしいあめが
レンゲのはらにふりそそぎました。
ピカッ!
いなずまがはしって、
おがわのほとりにおちました。
ピカッ、ピカッ、ピカッ!
あばれるオオナマズをふうじるように、
いなびかりがひろがりました。
ドーン!ゴロゴロゴロ……
そらからカミナリがおりてきました。
「こら、オオナマズ。
ふゆのあとには、はるがくるのだ。
あばれるのはやめろ」
きびしいかおでカミナリは、
オオナマズをとじこめたいなずまを
ほどきながら、いいました。
「ビリビリしびれたぜ」
すっかりめをまわしたオオナマズは、
ながいヒゲをしょげかえらせて、
みなそこへとしずんでいきます。
「ねむいなら、ねていろよ」
まだこどものカミナリは、
ふっとわらいました。
クエビコのかげから
ガッコとピピルコがかおをのぞかせ、
「たすけてくださって、ありがとう」
と、ふるえながらいいました。
カミナリのこは、
「れいなら、さっきのうたでいい」
と、にっこり。
「おいらは、ゴロリン。
おいらもいっしょにうたいたいけど、
あめがふってピカゴロしちゃうからな」
カミナリのこは、くもをよぶと、
つむじかぜにのってとびたちました。
「そらのうえでたのしくきいていたぞ、
またうたっておくれ」
あめがあがり、いちめんのレンゲが
しずくをのせて、きらきらひかります。
「カミナリさまのおでましで、
ことしのなえも、じょうぶにそだつな」
クエビコがつぶやき、
ガッコはほっとして、ふと
くちずさみました。
ププルコ こーろころ
ひょうたん ポックリコ
なみだがかわいたピピルコも、
こえをあわせます。
ガッコは けーろけろ
いなずま ピッカリコ
かみなり ゴロリンコで
なえほの みのりはザックザク
(おや、とおくのそらで、
そっとうたうゴロリンのこえも
きこえたかもしれません……)
はるのさんぽは、まだまだこれから。
タイトル案「はるのゴロリン」
( 2024.3.24 あらすじ初稿 全文かな書き )
( 2024.5.29 & 8.1 & 10.8 推敲加筆 )
( 2024.7.3~10.10 イラスト作成 10枚 )
アイデアスケッチ – あかり窓 (memoru-merumo.com)