私は太陽を崇拝する(野口米次郎)

私は太陽を崇拝する

私は太陽を崇拝する……
その光線(ひかり)のためでなく、太陽が地上に描く樹陰(こかげ)のために。
ああ、喜ばしい影よ、まるで仙女の散歩場のやうだ、
其處で私は、夏の日の夢を築くであらう。

私は女を禮拜する……
戀愛のためでなく、戀愛の追憶のために。
戀愛は枯れるであらうが、追憶は永遠(とこしへ)に青い、
私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう。

私は鳥の歌を謹聴する……
その聲のためでなく、聲につづく沈黙のために。
ああ、聲から生れる新鮮な沈黙よ、「死」の諧音よ、
私はいつも喜んでそれを聞くであらう。


( 野口米次郎「私は太陽を崇拝する」
『表象抒情詩集』第一巻、第一書房 1925年、100-101頁 )


「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2024.2.2~4 & 2.8 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )


背嚢(野口米次郎)

背嚢 

重荷を背負った
女性よ、
お前の袋は何か。
「時の砂袋、
 砂の一粒一粒が悲哀だ、
 悲哀は數へきれない。」

女性よ、
お前の髪は亂れる、
腰に渦巻く雲は何か。
「明日の魂、
 魂は希望に呼びかけ、
 魂は平和の頌を口吟む。」

濱邊は荒涼だ、
私は幻を嵐に見る、
ああ、何もの幻か。
「この世鎮めの人柱、
 彼等は皆を決して、
 皆部署についてゐる。」

女性よ、
お前の背嚢は重い、
お前は何を背負ってゆく。
「将来の種子、
 人生はその一粒一粒に、
 明日の豊華を待ち設ける。」


( 野口米次郎「背嚢(遺稿)」
 『蝋人形』1947年9月、8-9頁 )

「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2023.10.13 & 2024.2.8~9 イラスト作成 Bing Image Creator +加工 )