私は太陽を崇拝する 私は太陽を崇拝する…… その光線(ひかり)のためでなく、太陽が地上に描く樹陰(こかげ)のために。 ああ、喜ばしい影よ、まるで仙女の散歩場のやうだ、 其處で私は、夏の日の夢を築くであらう。 私は女を禮拜する…… 戀愛のためでなく、戀愛の追憶のために。 戀愛は枯れるであらうが、追憶は永遠(とこしへ)に青い、 私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう。 私は鳥の歌を謹聴する…… その聲のためでなく、聲につづく沈黙のために。 ああ、聲から生れる新鮮な沈黙よ、「死」の諧音よ、 私はいつも喜んでそれを聞くであらう。 ( 野口米次郎「私は太陽を崇拝する」 『表象抒情詩集』第一巻、第一書房 1925年、100-101頁 )
「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より
( 2024.2.2~4 & 2.8 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )