藝術 – New Art -(野口米次郎)

藝術 - New art -

そもそも藝術は、
蜘蛛の巣のように、香の空中にかかる、
柔かで生き生きと、音樂にゆれる。
(人生に浸潤する藝術は悲しい。)
その音樂は瞬間の緊張に死ぬる、生きる。
暗示がこの生命だ。
藝術に美と夢の「探求」はない、(なぜといふに、)
藝術は夢、美そのものに外ならない。
(私共は理想や問題や雑談やに疲れ切った。)
現實の黄昏に光る蛾一匹だ……
残忍な瞬間の餌食となって死なねばならない。
藝術は創像の驚異(さう私はいふ、)
衝動の金線に踊る、
光と影の小鬼(エルフ)……
藝術の美と悲劇はきらめき渡る。


( 野口米次郎「藝術」
『表象抒情詩集』第一書房 1925年、42-43頁 )


「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2024.1.14 & 2.4 +2.9 イラスト作成 Bing Image Creator +加工修正 )


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