夢緑 ゆめみどり(Bing Image Creator)


風は父さま 枝みな靡く
雪は母さま 白珠ひかる
冬の岸辺で 銀の渦しお
あわい光の 糸を紡いで
月影さやか 羽のころも
あなたのために
織りましょう

過ぎし日の 仮寝の宿は
甘い実香る 桑の葉かげ
私は夢見鳥 糸を紡いで
星影ほどに ひそやかな
草浪ほどに しなやかな
あなたの羽ごろも
織りましょう

旅につかれ まよう夢路
つつむ羽ごろも
あなたのために
織りましょう
早緑めざめ 若草もゆる
春の岸辺の 夜明けまで


( 2023.5.25 + 2024.2.11 ブログより 加筆 )
( 2024.2.4 イラスト作成 Bing Image Creator )


星の羽(絵 Bing Image Creator) – あかり窓 (memoru-merumo.com)

天の布(Bing Image Creator) – あかり窓 (memoru-merumo.com)


藝術 – New Art -(野口米次郎)

藝術 - New art -

そもそも藝術は、
蜘蛛の巣のように、香の空中にかかる、
柔かで生き生きと、音樂にゆれる。
(人生に浸潤する藝術は悲しい。)
その音樂は瞬間の緊張に死ぬる、生きる。
暗示がこの生命だ。
藝術に美と夢の「探求」はない、(なぜといふに、)
藝術は夢、美そのものに外ならない。
(私共は理想や問題や雑談やに疲れ切った。)
現實の黄昏に光る蛾一匹だ……
残忍な瞬間の餌食となって死なねばならない。
藝術は創像の驚異(さう私はいふ、)
衝動の金線に踊る、
光と影の小鬼(エルフ)……
藝術の美と悲劇はきらめき渡る。


( 野口米次郎「藝術」
『表象抒情詩集』第一書房 1925年、42-43頁 )


「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2024.1.14 & 2.4 +2.9 イラスト作成 Bing Image Creator +加工修正 )


東洋的想像よ(野口米次郎)

東洋的想像よ

降る雪を花と見立てる東洋の想像に對し私は感謝する。
冬の霜や風に春の音信を聞く東洋の想像に對し私は感謝する。
四季から冬を奪って、室内に春を想像する東洋的態度は、必ずしも冬を恐れるからで無い。
一日も早く春の法悦に浴したい希望からであると信じます。
ああ、東洋的想像よ、
あなたは決して卑怯者で無い、
あなたは無を有とする勇者です。
あなたのお陰で私達は此小さい島を大きな世界として数千年間生きて来ました。
この貧しい生活を喜ばしい幻像で包んで生きて来ました。
ああ、東洋的想像よ、
あなたは私達の眼界から實在を奪ったのでない、
あなたは私達に第四次(フォス・ダイメンション)の世界を與へました。
少くも私はあなたを失ったならば、
その時こそは、日本という故國に告別して、
紐育か倫敦の郊外に移住するでありませう。
ああ、東洋的想像よ、
なんだか私はあなたに離れさうに思はれます。
どうか私をしっかりと捉へて居てくださいー
私の二つの手はここにあります。
その手をぢっと握ってください。
(後略)


(野口米次郎「東洋的想像よ」
『沈黙の血汐』新潮社 1922年5月24日発行、廉価版17版 1925年12月25日発行、16-20頁 )

「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2024.2.2 & 2.9 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )


私は太陽を崇拝する(野口米次郎)

私は太陽を崇拝する

私は太陽を崇拝する……
その光線(ひかり)のためでなく、太陽が地上に描く樹陰(こかげ)のために。
ああ、喜ばしい影よ、まるで仙女の散歩場のやうだ、
其處で私は、夏の日の夢を築くであらう。

私は女を禮拜する……
戀愛のためでなく、戀愛の追憶のために。
戀愛は枯れるであらうが、追憶は永遠(とこしへ)に青い、
私は追憶の泉から、春の歓喜を汲むであらう。

私は鳥の歌を謹聴する……
その聲のためでなく、聲につづく沈黙のために。
ああ、聲から生れる新鮮な沈黙よ、「死」の諧音よ、
私はいつも喜んでそれを聞くであらう。


( 野口米次郎「私は太陽を崇拝する」
『表象抒情詩集』第一巻、第一書房 1925年、100-101頁 )


「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2024.2.2~4 & 2.8 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )


背嚢(野口米次郎)

背嚢 

重荷を背負った
女性よ、
お前の袋は何か。
「時の砂袋、
 砂の一粒一粒が悲哀だ、
 悲哀は數へきれない。」

女性よ、
お前の髪は亂れる、
腰に渦巻く雲は何か。
「明日の魂、
 魂は希望に呼びかけ、
 魂は平和の頌を口吟む。」

濱邊は荒涼だ、
私は幻を嵐に見る、
ああ、何もの幻か。
「この世鎮めの人柱、
 彼等は皆を決して、
 皆部署についてゐる。」

女性よ、
お前の背嚢は重い、
お前は何を背負ってゆく。
「将来の種子、
 人生はその一粒一粒に、
 明日の豊華を待ち設ける。」


( 野口米次郎「背嚢(遺稿)」
 『蝋人形』1947年9月、8-9頁 )

「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より

( 2023.10.13 & 2024.2.8~9 イラスト作成 Bing Image Creator +加工 )