因果交流電燈

旗竿賈

「旗竿や旗竿」と國旗の旗竿賈が通る、
明日は紀元節で十四日は國葬※の日だといふことに氣附く、
旗竿よお前は、喜びの日にも悲みの日にも同じ姿で出て来る、
お前は生と死とを同じ言葉で語る永劫の表象だ、
僕も旗竿賈のやうに自分の詩を賈って歩かうかと思ってみる。
僕の詩は光とも見え影とも見える時間から生れる、
虚と實を自由に織りだす空間の廻燈籠だ、
讀者銘銘の心に答へる焙り出しだ、
讀者を得て初めて箇性を確立させる白い紙の一片だ。
(※伏見元帥宮國葬)


野口米次郎「旗竿賈」
(『早稲田文学』1923年4月 掲載 )

「二重国籍」詩人 野口米次郎
( 堀まどか著、名古屋大学出版会、2012.2.29 初版第1刷発行 )より



わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです

これらについて人や銀河や修羅や海胆は
宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが
それらも畢竟こゝろのひとつの風物です
たゞたしかに記録されたこれらのけしきは
記録されたそのとほりのこのけしきで
それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで
ある程度まではみんなに共通いたします
(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
 みんなのおのおののなかのすべてですから)

けれどもこれら新生代沖積世の
巨大に明るい時間の集積のなかで
正しくうつされた筈のこれらのことばが
わづかその一点にも均しい明暗のうちに
  (あるいは修羅の十億年)
すでにはやくもその組立や質を変じ
しかもわたくしも印刷者も
それを変らないとして感ずることは
傾向としてはあり得ます
けだしわれわれがわれわれの感官や
風景や人物をかんずるやうに
そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに
記録や歴史 あるいは地史といふものも
それのいろいろの論料データといつしよに
(因果の時空的制約のもとに)
われわれがかんじてゐるのに過ぎません
おそらくこれから二千年もたつたころは
それ相当のちがつた地質学が流用され
相当した証拠もまた次次過去から現出し
みんなは二千年ぐらゐ前には
青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ
新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層
きらびやかな氷窒素のあたりから
すてきな化石を発掘したり
あるいは白堊紀砂岩の層面に
透明な人類の巨大な足跡を
発見するかもしれません

すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます


     大正十三年一月廿日
宮沢賢治

宮沢賢治 『春と修羅』 (aozora.gr.jp)

春と修羅 – Wikipedia


野口米次郎は英詩を書く国際派として
戦前には高い評価を得ていたが、
第二次世界大戦、日中・太平洋戦争下、
戦争詩により日本の国家プロパガンダに
協力、終戦まもなくの1947年に病没。

現代ではあまり知られていない詩人
という印象を受けるが、彼の作品は
宮澤賢治にも影響を与えたのだろうか?
(ふとそんな問いを抱いた)


新美南吉とエブリディ・マジック – ぶるーまーぶる (fairy-scope.com)


( 2024.2.11 イラスト作成 Bing Image Creator )


ふたご座の夜


「たくさんの灯がながれていくよ」
「わたしたち海におちたら、ヒトデになるのかしら?」
「いっしょなら、きっとだいじょうぶ」

ふたご座流星群がきれいな夜です。


( 2021.12.13 Twitter より)


きらりと冷涼


アカトンボが
つれだって
輪を描きながら
とんでいた。

子どもの頃、
谷川を飛行する
イトトンボやカワトンボの
美しさに魅了されてたっけ。
いろんな色の羽根で
ついついと軽やかに風をわたる
メタリックな輝き……
澄んだ空気の精のように。

薄紫のヤブランが咲いていた、
もう秋なんだな。

台風の進路が気になる。
ふきぬける風に
木の葉がまいおどる。
いちめんのヤブラン……

宮沢賢治 銀河鉄道の夜 (aozora.gr.jp)
「月長石ででも刻きざまれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました」
「もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんどうの花のコップが、湧くように、雨のように」

シラーの青びかり、
柔らかな半透明、
銀河を彩る秋の花。

湧くように、雨のように……

この表現、月長石の
柔らかなシラー効果の青びかりが
目に浮かぶ。
賢治は、シラー効果のある石が
好きだったのかな?

そういえば、風の又三郎は
ちょうど今頃の童話だった。
風の精の
ガラスのマント、
谷川や草原を吹きわたる
きらりと冷涼な、秋風や日光。


( 2021.8.24~9.13 Twitter より)