昼が一番長い日。西の夕空に、
赤い火星と青いレグルスとが
なかよく並んで灯りました。

今宵は「夏至の宴」です。
シロツメクサのしげる野原に、
ふわりふわり……妖精たちが
集まってきました。みんなで
色とりどりに咲くアジサイに
腰かけ、杯を酌み交わします。
深い青の花には、ひっそりと
王の娘の藍姫が座っています。
アジサイの花陰では、明々と
深紅のグラジオラスの篝火が
夜の闇を照らしていました。
ときおり藍姫は、その篝火を
そっと眺め、星を見上げます。
火焚きの番をしている衛士の
紅い髪を思い浮かべながら。
一晩ずっと燃え続ける夏の花。
グラジオラスを見守りながら、
衛士もときおり天を仰ぎます。
楽しげな歌や笑い声がひびく
丈高いアジサイの垣をこえて、
赤い火星と青いレグルスの星、
ふたつの光がこぼれてきます。

真夜中、小さな気配があれば
そのたび、脇においた剣へと
衛士は手をのばします。でも
やってきたのは、コウモリや
フクロウ、野ネズミにモグラ、
カエルと蛾とカタツムリ……
みんな衛士の友だちでした。
夜明けが近づく頃、そぅっと
宴をぬけだした姫が、篝火を
道のしるべに訪ねてきました。
「寝ずの番、ありがとう」
藍姫はほほえみ、衛士のため
とっておいた宴のごちそうと
露酒を、草の葉に並べました。
衛士の胸に光るのは、藍姫が
手渡した紅い石のお守りです。
血止めの力が宿るという石に、
仕事の無事を祈っての露結び。
「ないしょですよ」
姫の言葉に、衛士はにっこり。
「はい、ないしょです……」
暁の光がそよ風を染めました。
ないしょのお酒の杯のせいか、
衛士の頬もほんのりと赤い……
赤い火星と青いレグルスとが
西空に並び灯った夜、そして
夜明けが一番はやかった朝の、
とある野原のかたすみ……

グラジオラスの花陰での
できごとです。
( 2025.6.23 &28~29 イラスト作成 Bing Image Creator +一部加工 )